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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)138号・昭48年(ネ)866号 判決

主文

一  控訴人の本件控訴を棄却する。

二  被控訴人らの附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人川口新一郎及び被控訴人川口治夫に対し、別紙物件目録【一】記載の土地を明け渡し、かつ、各金二五五万四四六〇円及び昭和六〇年一一月二〇日から右土地明渡しまで各一か年金二七万〇六二〇円の割合による金員を支払え。

2  控訴人は、被控訴人川口新一郎に対し、別紙物件目録【二】記載(二)ないし(四)の各土地を明け渡し、かつ、金三四五三万〇七二七円及び昭和六〇年一一月二〇日から右各土地明渡しまで一か年金五〇四万七八四〇円の割合による金員を支払え。

3  控訴人は、被控訴人川口和夫に対し、別紙物件目録【二】記載(六)の土地を明け渡し、かつ、金二九七万四六〇七円及び昭和六〇年一一月二〇日から右土地明渡しまで一か年金四三万四八四〇円の割合による金員を支払え。

4  控訴人は、被控訴人川口治夫に対し、別紙物件目録【二】記載(五)、(七)ないし(二)の各土地を明け渡し、かつ、金四三五八万八六二六円及び昭和六〇年一一月二〇日から右各土地明渡しまで一か年金六三七万一九六〇円の割合による金員を支払え。

5  控訴人は、被控訴人川口貴雄に対し、別紙物件目録【二】記載(一)の土地を明け渡し、かつ、金一二〇八万〇三九一円及び昭和六〇年一一月二〇日から右土地明渡しまで一か年金一七六万五九六〇円の割合による金員を支払え。

6  控訴人は、被控訴人川口新一郎に対し、別紙物件目録【三】記載(二)、(三)の各土地を明け渡すとともに、同目録【四】記載の建物及び物件を収去して同目録【三】記載(一)の土地を明け渡し、かつ、金二一三二万三七二四円及び昭和六〇年一一月二〇日から右各土地明渡しまで一か年金二二五万九〇四〇円の割合による金員を支払え。

三  当審における訴訟費用は、控訴人の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人(附帯被控訴人。以下「控訴人」という。)の負担とする。

三  附帯控訴の趣旨

1  原判決を次のとおり変更する。

2  控訴人は、被控訴人川口新一郎(以下「被控訴人新一郎」という。)及び被控訴人川口治夫(以下「被控訴人治夫」という。)に対し、別紙物件目録【一】記載の土地を明け渡し、かつ、各二五五万四四六〇円及び昭和六〇年一一月二〇日から右土地明渡しまで各一か年二七万〇六二〇円の割合による金員を支払え。

3  控訴人は、被控訴人新一郎に対し、別紙物件目録【二】記載(二)ないし(四)の各土地を明け渡し、かつ、三四五三万〇七二七円及び昭和六〇年一一月二〇日から右各土地明渡しまで一か年五〇四万七八四〇円の割合による金員を支払え。

4  控訴人は、被控訴人川口和夫(以下「被控訴人和夫」という。)に対し、別紙物件目録【二】記載(六)の土地を明け渡し、かつ、二九七万四六〇七円及び昭和六〇年一一月二〇日から右土地明渡しまで一か年四三万四八四〇円の割合による金員を支払え。

5  控訴人は、被控訴人治夫に対し、別紙物件目録【二】記載(五)、(七)ないし(二)の各土地を明け渡し、かつ、四三五八万八六二六円及び昭和六〇年一一月二〇日から右各土地明渡しまで一か年六三七万一九六〇円の割合による金員を支払え。

6  控訴人は、被控訴人川口貴雄(以下「被控訴人貴雄」という。)に対し、別紙物件目録【二】記載(一)の土地を明け渡し、かつ、一二〇八万〇三九一円及び昭和六〇年一一月二〇日から右土地明渡しまで一か年一七六万五九六〇円の割合による金員を支払え。

7  控訴人は、被控訴人新一郎に対し、別紙物件目録【三】記載(二)、(三)の各土地を明け渡すとともに、同目録【四】記載の建物及び物件を収去して同目録【三】記載(一)の土地を明け渡し、かつ、二一三二万三七二四円及び昭和六〇年一一月二〇日から右各土地明渡しまで一か年二二五万九〇四〇円の割合による金員を支払え。

8  訴訟費用は、第一、二審とも、控訴人の負担とする。

9  仮執行の宣言

四  附帯控訴の趣旨に対する答弁

1  被控訴人らの本件附帯控訴及び当審における請求拡張部分を棄却する。

2  附帯控訴費用は、被控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  (本件各土地の所有関係)

(一) 別紙物件目録【一】記載の土地(以下「本件一土地」という。)は、もと川口幹(以下「幹」という。)が所有していた。

(二) 別紙物件目録【二】記載の各土地(以下「本件二土地」という。)は、もと川口中丸(以下「中丸」という。)が所有していた。

(三) 別紙物件目録【三】記載の各土地(以下「本件三土地」という。)は、被控訴人新一郎が所有している。

2  (賃貸借契約の締結)

幹、中丸及び被控訴人新一郎(以下右三名を「幹ほか二名」という。)は、昭和二八年一一月二〇日、設立中の控訴人の発起人代表者との間に、本件一ないし三の各土地(以下、一括して単に「本件各土地」ともいう。)について左記内容の賃貸借契約(以下、「本件賃貸借契約」という。)を締結した。

使用目的 ゴルフ場(同目的以外に使用することはできない。)

賃貸期間 右契約日から一〇年間

賃料 一反歩(三〇〇坪=991.73平方メートル)につき一か年六〇〇〇円(なお、右金額は、昭和三七年一一月分以降一反歩につき一か年九二五八円に増額された。)

支払い方法は、毎年一一月二〇日までに持参払い

特約 賃借人が満一年以上賃料の支払を延滞したときは、賃貸人は本契約を解除することができる。

期間満了又は契約解除により本契約が終了したときは、賃借人は建物その他の施設を撤去して本件各土地を返還しなければならない。

そして、控訴人は、昭和二九年三月一五日設立され、発起人代表者から、本件賃貸借契約上の賃借人の地位を承継した。

3  (賃貸借契約の終了)

(一) 本件賃貸借契約は、昭和三八年一一月一九日の経過とともに、賃貸期間の満了により終了した。

(二) 仮に本件賃貸借契約の賃貸期間満了後も控訴人が本件各土地の使用を継続したことにより本件賃貸借契約が更新されたとしても、幹ほか二名は、控訴人に対し、本訴の提起により本件賃貸借契約の解約を申し入れたので、民法六一九条、六一七条により、本件賃貸借契約は、遅くとも本件訴状が陳述された昭和三九年九月一五日の原審第一回口頭弁論期日から一年を経過した昭和四〇年九月一五日限り終了した。

4  (控訴人による本件各土地の占有)

ところが、控訴人は、昭和三八年一一月二〇日以降も、本件一、二及び三(二)、(三)各土地を占有するとともに、本件三(一)土地上に別紙物件目録【四】記載の建物及び物件を所有して同土地を占有している。

5  (相続)

(一) 幹は、昭和五五年五月二四日死亡し、その相続人である妻の中丸、長男の被控訴人新一郎、二男の被控訴人和夫及び三男の被控訴人治夫の四人間に同年一一月三〇日に成立した遺産分割の協議により、被控訴人新一郎及び被控訴人治夫が各二分の一の割合で本件一土地の所有権及び右土地についての昭和三八年一一月二〇日から昭和五五年五月二四日までの賃料相当損害金債権を相続取得した。

(二) また、中丸は、昭和六二年一一月一九日死亡し、その相続人である長男の被控訴人新一郎、二男の被控訴人和夫、三男の被控訴人治夫及び養子の被控訴人貴雄の四名間に昭和六三年四月三〇日に成立した遺産分割の協議により、被控訴人新一郎は、本件二(二)ないし(四)各土地の所有権及び右各土地についての昭和三八年一一月二〇日から昭和六二年一一月一九日までの賃料相当損害金債権を、被控訴人和夫は、本件二(六)土地の所有権及び右土地についての右期間の賃料相当損害金債権を、被控訴人治夫は、本件二(五)、(七)ないし(二)各土地の所有権及び右各土地についての右期間の賃料相当損害金債権を、被控訴人貴雄は、本件二(一)土地の所有権及び右土地についての右期間の賃料相当損害金債権をそれぞれ相続取得した。

6  (賃料相当損害金)

(一) 昭和三八年から昭和五九年までの各年の本件各土地の一平方メートル当たり一か年の賃料相当損害金は、別紙各賃料相当損害金一覧表記載のとおりであり、昭和六〇年以降も昭和五九年の額を下回ることはない。

(二) (本件一土地についての賃料相当損害金)

そこで、被控訴人新一郎及び被控訴人和夫がそれぞれ控訴人に対して有する本件一土地についての昭和三八年一一月二〇日から昭和六〇年一一月一九日までの各年ごとの賃料相当損害金の各額を計算すると、別紙賃料相当損害金一覧表【一】記載のとおりとなり、その合計額は各二五五万四四六〇円となる。

(三) (本件二土地についての賃料相当損害金)

(1) 控訴人は、中丸に対し、本件二土地の賃料として、次のとおり合計三五三九万四三八四円(以下「本件供託金」という。)を供託した。

昭和五六年一一月二〇日から昭和五七年一一月一九日まで分

一〇七五万〇五四五円

昭和五七年一一月二〇日から昭和五八年一一月一九日まで分

一三一三万四一五〇円

昭和五八年一一月二〇日から昭和五九年一一月一九日まで分

一三三七万七三七五円

(2) そこで、中丸は、昭和六〇年四月三日に控訴人に到達した内容証明郵便により、控訴人に対して本件供託金を本件二土地の賃料相当損害金に弁済充当する旨通知したうえ、そのころその還付を受けた。

そして、中丸は、還付を受けた本件供託金を、第一次的には、昭和三八年一一月二〇日から昭和五一年一一月一九日までの各年の賃料相当損害金及び同年一一月二〇日から昭和五二年一一月一九日までの一年分の賃料相当損害金の一部に、第二次的には、控訴人が供託の目的とした昭和五六年一一月二〇日から昭和五八年一一月一九日までの各年の賃料相当損害金及び同年一一月二〇日から昭和五九年一一月一九日までの一年分の賃料相当損害金の一部に弁済充当した。

(3) したがって、被控訴人らは、中丸が本件供託金を右のように弁済充当した後の本件二土地の賃料相当損害金債権を前記のようにそれぞれ相続取得したものである。そして、被控訴人新一郎が本件二(二)ないし(四)各土地について、被控訴人和夫が本件二(六)土地について、被控訴人治夫が本件二(五)、(七)ないし(二)各土地について、及び被控訴人貴雄が本件二(一)土地について、それぞれ中丸から相続した右各土地の昭和三八年一一月二〇日から昭和六〇年一一月一九日までの賃料相当損害金の各額を計算すると、被控訴人新一郎のそれは別紙賃料相当損害金一覧表【二】の(一)の(A)又は同【二】の(二)の(A)記載のとおり合計三四五三万〇七二七円となり、被控訴人和夫のそれは別紙賃料相当損害金一覧表【二】の(一)の(B)又は同【二】の(二)の(B)記載のとおり合計二九七万四六〇七円となり、被控訴人治夫のそれは別紙賃料相当損害金一覧表【二】の(一)の(C)又は同【二】の(二)の(C)記載のとおり合計四三五八万八六二六円となり、被控訴人貴雄のそれは別紙賃料相当損害金一覧表【二】の(一)の(D)又は同【二】の(二)の(D)記載のとおり合計一二〇八万〇三九一円となる(なお、右各賃料相当損害金一覧表のうち、【二】の(一)の(A)ないし(D)は、中丸のした本件供託金の第一次的充当の場合であり、【二】の(二)の(A)ないし(D)は、同第二次的充当の場合である。)。

(四) (本件三土地についての賃料相当損害金)

被控訴人新一郎が控訴人に対して有する本件三土地について昭和三八年一一月二〇日から昭和六〇年一一月一九日までの各年ごとの賃料相当損害金の各額を計算すると、別紙賃料相当損害金一覧表【三】記載のとおりとなり、その合計額は二一三二万三七二四円となる。

7  (結び)

よって、被控訴人らは、控訴人に対し、附帯控訴の趣旨2ないし8記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は、認める。

2  請求原因2の事実は、認める。

ただし、賃貸期間の約定は、例文である。すなわち、後述の控訴人が本件賃貸借契約によって達成しようとした経済的又は社会的目的からみれば、右約定は、賃貸借の期間を定めたものではなく、単なる地代その他の賃貸借の条件の再検討の時期を定めたにすぎないことは明らかである。もし、賃貸借の期間が一〇年という極めて短期、かつ、不安定なものであれば、控訴人が後述のような多額の権利金を支払ったり、莫大な資金を投じて諸施設を整備するはずがない。

3  請求原因3(一)、(二)の各主張は、争う。

4  請求原因4の事実は、認める。

5  請求原因5の事実は、知らない。

6  請求原因6の主張は、争う。

本件各土地の実測面積は、全体では登記簿上の面積を上回るが、各筆ごとにみれば登記簿上の面積を下回るものもある。

また、控訴人が本件ゴルフ場について被控訴人らを除くその余の地主たちに支払っている地代の額は別表「地主会賃料」記載のとおりであり、被控訴人ら主張の賃料相当損害金の額は、これと大きく乖離している。

三  抗弁

1  (本件賃貸借契約締結の経緯)

(一) 本件各土地の隣地約二四万坪(以下「旧ゴルフ場用地」という。)は、もと社団法人大和スポーツ協会が昭和五年ころからこれを幹を含む地主たちから賃借し、ゴルフ場として使用していたが、太平洋戦争末期に軍に接収され、農耕地とされ、終戦後は荒れ地となっていた。そこで、千葉県は、右土地に五四戸の開拓者を入植させ、右土地を未墾地として自作農創設特別措置法により買収しようとした。これに対し、幹を中心とした地主たちは、右土地は農地であって未墾地ではないと主張して、千葉県と入植者らに対して右土地の返還を要求し、他方、入植者らは、国に対し、右土地が農地ならばこれを同法によって農地として買収するよう求め、地元農業委員会は、これを承けて、農地として買収することを検討し始めた。したがって、右土地は、農地であれ未墾地であれ、いずれにしても二束三文で強制買収されることが避けられない運命にあった。

(二) そこに幹を含む地主たちが右強制買収を免れて右土地の所有権を確保する方法として浮上してきたのが、まだ賃貸借期間の残存していた旧ゴルフ場の再開であった。そこで、幹を中心とする地主たちは、入植者たちと旧ゴルフ場用地からの立退きについて種々交渉したが、入植者五四戸中四〇戸は金銭補償を条件とする離農を承諾したものの、残り一四戸は離農を固く拒否した。しかし、その後の関係者の話合いと努力により、離農を承諾する四〇戸には金銭補償をして立ち退いてもらうこと、離農を拒否する一四戸には、地主たちが、旧ゴルフ場用地から所有地の二〇パーセントずつ合計一四町歩を拠出し、右一四戸に一町歩ずつ供与すること、地主たちは、右一四町歩を除いた旧ゴルフ場用地を新たに設立されるゴルフ倶楽部にゴルフ場用地として賃貸するほか、旧ゴルフ場用地はこれから右一四町歩を割愛したままでは面積が不足してゴルフ場としての経営が不可能であるので、旧ゴルフ場用地に隣接する本件各土地を含む代替地をゴルフ場用地として賃貸すること、新たに設立されるゴルフ倶楽部は、右離農する入植者に支払うべき補償金三五八四万円余を負担することなどが合意された。

(三) その結果、新たに設立されるゴルフ倶楽部である控訴人の設立発起人代表者は、昭和二七年から翌二八年にかけて地主たちが離農する入植者に支払うべき補償金三五八四万円余を負担して支払うとともに、昭和二七年九月二四日入植者に提供された一四町歩を除く旧ゴルフ場用地について地主たちとの間に賃貸借契約を締結し、次いで、昭和二八年一一月二〇日本件各土地について幹ほか二名との間に本件賃貸借契約を締結した。

2  (借地法の適用)

(一) 本件賃貸借契約は、建物所有を目的とした賃貸借契約であるから、借地法の適用がある。すなわち、

(1) まず、本件賃貸借契約についての契約書(<書証番号略>。以下「本件契約書」という。)第一二条は、「本契約の満了又は契約を解除した際甲は建物その他の施設を撤去した上且原状に復し……」と記載し、契約書の文言上明らかに本件各土地上に建物を築造し得ることを認めている。

(2) また、本件契約書第一二条の文言は別にしても、本件各土地は、控訴人においてゴルフ場経営のため賃借したものであるから、その目的達成のため当然必要な建物(例えば、スタート小屋、コース内休憩所、クラブハウス、ロッカー室、ボイラー浴室、キャデーマスター室、キャデー控室、キャデー宿舎、運転手控室、従業員控室、肥料切替室、ロッジ、機械器具庫、雑品倉庫、ポンプ小屋、コース管理室等)を築造することは、賃借人も賃貸人も当然のことと了承していたものとみるべきであり、それだからこそ、本件契約書第一二条に前記のように立退きの場合における建物撤去の文言が記載されていることもすんなりと理解し得るのである。

(3) したがって、これらの点から、本件賃貸借契約が建物所有を目的とした賃貸借契約であることは明らかであるというべきである。

(二) そして、控訴人がゴルフ場経営のために建築する建物としては、その性質上堅固な建物が建築されることも当然あり得るのであるから、本件賃貸借契約の賃貸期間は堅固建物所有を目的とするものとして契約締結の時から六〇年と解すべきであり、仮に非堅固建物所有を目的とするものであるとしても三〇年と解すべきである。

(三) そして、仮に本件賃貸借契約が非堅固建物所有を目的としたものであり、昭和五八年一一月一九日三〇年の賃貸期間が満了したとしても、控訴人は、その後も本件各土地の使用を継続しているから、本件賃貸借契約は法定更新された。

3  (当然更新の合意)

仮に本件賃貸借契約について借地法の適用がなく、かつ、一〇年という賃貸期間についての約定が例文ではないとしても、本件賃貸借契約には賃貸期間の一〇年が経過したときは契約は当然に更新され、地代その他の賃貸借の条件のみを再検討するとの合意が存した。すなわち、前述のように、本件賃貸借契約は、幹を含む地主たちが旧ゴルフ場用地の土地所有権を回復するために控訴人にこれをゴルフ場用地として賃借してもらうことと密接不可分な関係の下に、本件各土地もこれと一体としてゴルフ場用地として使用する目的でされたものであること、そして、右契約締結に至る経緯から明らかなように、当事者双方とも敢えて賃貸期間を一〇年に限定しなければならない客観的事情は何もなかったこと、控訴人は、前述のように旧ゴルフ場用地から立ち退く入植者に対して支払われた多額の補償金を負担しており、これは一種の権利金であること、ゴルフ場用地の経営には莫大な設備投資が必要であり、また、ゴルフ場用地の整備には少なくとも五、六年の期間を要するのであるから、ゴルフ場用地賃貸借の当事者が僅か一〇年という短期、かつ、不安定な賃貸期間で契約を締結するとは到底考えられないことからすれば、本件賃貸借契約については、契約当事者間に、一〇年の賃貸期間が満了しても契約は当然に更新され、地代その他の賃貸借の条件のみを再検討するとの合意(以下「当然更新合意」という。)が存したものと解すべきである。

4  (組合契約の法理の適用)

(一) 前述のように、本件賃貸借契約は、旧ゴルフ場用地の地主たちが国による同土地の未墾地又は農地としての買収を阻止してその所有権を確保するとともに、これを共同して控訴人に賃貸することによって個々に賃貸していたのでは得られない高水準の地代収入の安定的確保を図るという共同の目的の下に、その目的達成の手段の一環として締結されたものである。したがって、幹を含む地主たちは、その相互間において、遅くとも昭和二八年一一月二〇日までに、入植者に提供された一四町歩を除く旧ゴルフ場用地とこれに隣接する本件各土地を含む右一四町歩の代替地とを合わせた一団の土地をいわば共同出資の形で控訴人にゴルフ場用地として集団賃貸し、これによって控訴人から高水準の地代収入を安定的に確保するという共同事業遂行のため、ゴルフ場経営協力契約ともいうべき民事組合契約を締結したものとみるべきである。

(二) そして、これを組合の共同事業遂行という活動の面からみても、本件の地主たちは、対内的には、地主会を結成し、年二回の総会、役員会等を定時又は臨時に開催し、定時総会では組合の代表者その他の役員を選出し、組合の事務執行、例えば、契約条件の変更、組合脱退者の処理等につき報告を受け、決議をしてきたのであるから、地主会は民事組合としての実態になんら欠けるところはない。

また、対外的にも、地主会は、控訴人から地代を一括して受領し、これから一部を共同経費に積み立て、使用し、残額は全組合員に出資持分(出資した土地利用権の面積割合)に応じて分配していたのであり、地代値上げ交渉も、個々の地主と控訴人とが個別にすることはなく、地主会と控訴人との間で一括して交渉が行われていた。

(三) このように、控訴人に対してゴルフ場用地を賃貸している地主たちは組合契約を締結しているものとみられる以上、各地主と借地人である控訴人との間の各土地賃貸借契約は、民事組合契約の法理の制約を受けるものというべきである。

そして、民事組合においては、各組合員の出資した財産は組合財産を構成し、全組合員の総有に属し、その処分は組合員の一致した意思によってのみ、すなわち、全組合員が共同して若しくは全組合員から授権された組合代表者のみがなし得るのであり、また、組合から脱退した組合員は、その脱退の効果として、組合に対して持分の払戻しを請求し得るにとどまり、当然に出資した財産を回復し得るものではないから、本件各土地について賃貸借契約の解除、更新拒絶、明渡し請求等をすることができるのは地主会のみであって、被控訴人らは、地主会の合意なしに単独で右のような請求をすることはできず、また、仮に被控訴人らが既に地主会を脱退しているとしても被控訴人らは、組合(地主会)に対して出資持分の払戻し請求権を取得するにすぎず、控訴人に対して直接本件各土地について賃貸借契約の解除、更新拒絶、明渡し請求等をすることはできないのである。

5  (ゴルフ場経営協力の特約)

(一) 仮に地主会が民法上の組合と認められず、本件賃貸借契約が民事組合契約の法理の制約を受けないとしても、地主会の会員である地主たちは、控訴人との各土地賃貸借契約締結当時、各地主が所有する相互に連続して一団となっている土地をいわば共同出資的に一個の土地であるかのような形で控訴人に賃貸してゆくことによりはじめて、控訴人はゴルフ場経営が可能となり、他方、地主会会員全員も控訴人から高水準の継続的、安定的な地代収入を確保し得ることを認識し、この状態を創り出し、継続してゆくことを内部的に合意し、これを控訴人との右各土地賃貸借契約の内容ともすべく、控訴人との間に、右各土地賃貸借契約に付随して、次の二点からなるゴルフ場経営協力の特約的合意をした。

(1) 地主は、控訴人がゴルフ場用地をゴルフ場経営以外の用途に転用する等の特別の事情の変更がない限り、土地賃貸借契約の期間満了ごとに同契約を更新し、賃貸借契約を継続させる。

(2) 地主は、ゴルフ場用地の譲渡、賃貸借契約の解除、更新拒絶その他控訴人の土地使用を不可能にする行為をしようとするときは、あらかじめ地主会を構成する全地主の承認を得なければならず、右承認を得ないで単独でかかる行為をしても控訴人に対して効力を生じない。

(二) 控訴人は、現在でも、ゴルフ場の経営を継続中であり、かつ、将来もこれを継続する希望を有しているところ、被控訴人らは、右特約的合意に反し、地主会の承認を得ないで単独で更新拒絶の意思表示をしたものであるから、控訴人に対して更新拒絶の効果は発生しない。

6  (信義則違反ないし権利濫用)

また、次の諸事情にかんがみれば、被控訴人らが本件賃貸借契約について更新を拒絶し、本件各土地について賃貸借契約が終了したとしてその明渡しを請求することは信義則に反し、権利濫用として許されないものというべきである。

(一) 前記のとおり、本件賃貸借契約は、幹を含む地主たちが旧ゴルフ場用地の強制買収を免れるため、これを新たに設立される控訴人にゴルフ場用地として提供するに当たり、旧ゴルフ場用地から入植者に提供された一四町歩を除いたままでは面積的にゴルフ場用地として不足するところから、右一四町歩の代替地として本件各土地を含む土地を提供することになり、その一環として締結されたものであり、したがって、本件各土地は、これなくしては新ゴルフ場すなわち控訴人の発足はあり得ず、ひいては旧ゴルフ場用地の強制買収を免れることもできなかった重要な土地なのである。しかも、幹を含む地主たちは、自らは旧ゴルフ場用地の二〇パーセントを拠出するのみで、離農する入植者に支払うべき補償金三五八四万円は全額控訴人に負担させて、旧ゴルフ場用地の八〇パーセントの所有権を確保し得たばかりか、それまでは名目のみで収益の上がらなかった土地を地代の上がる土地にすることができたのであるが、これも本件各土地を含む右一四町歩の代替地を提供することなしにはなし得なかったことである。そして、このことは、幹ほか二名も十分承知していたことである。

(二) また、控訴人は、本件各土地を含むゴルフ場用地を長期間にわたり使用することができるものと期待して、その賃借当初から現在に至るまで絶えず資本を投下し、莫大な設備投資を行ってきたのであり、今本件各土地を明け渡さねばならないことになれば、次にも述べるようにゴルフ場全域を明け渡さねばならないことになり、莫大な損害を被ることになる。幹ほか二名は、控訴人が莫大な設備投資を要するゴルフ場経営をすることを承知で本件賃貸借契約を締結したものである。

(三) 本件各土地を失うことは、ゴルフ場全域の閉鎖、ひいては控訴人の消滅につながる重大な支障を生ずるものである。

すなわち、ゴルフ場は、最低一八ホールがあり、その一八ホールについて一ホールずつ距離(ヤーテージ)が決まっているのである。ところが、もし本件各土地を被控訴人らに返還することになれば、本件各土地に囲まれたその余の代替地は地形上全部が使用不可能となる。すなわち、一八ホール中、アウト四番、五番、イン一六番、一七番の約半分が、また、イン一四番、一一番の約三分の一が、さらに、イン一二番、一三番の全部が消滅することになるのであって、これは、到底ヤーテージの設計変更でしのげるものではないのである。

また、控訴人のゴルフ場は、もともとチャンピオンコースとして計画、造成されたもので、ヤーテージのごまかしのきかない国際競技をもなし得る名門ゴルフ場である。したがって、もし本件各土地を被控訴人らに返還することになれば、残地を設計変更したり、あるいは一八ホール以下のホールに縮小したりして事業を継続することは不可能であって、ゴルフ場の全面閉鎖を余儀なくされることになる。

(四) 控訴人が本件各土地の代替地を他に求めることは、不可能であり、このことは被控訴人らも熟知している。

(五) 被控訴人らは、本件各土地の返還を受けても、現在これを使用する必要性がない。すなわち、

(1) 被控訴人らは、本件各土地以外にも広大な土地を有する大地主であり、本件各土地に住宅を建設する必要は全くない。また、本件各土地は市街化調整区域内にあるから、これを住宅用地に供する目的で他に処分することはできないし、被控訴人らが農地として利用する土地でもない。

(2) 被控訴人らは、その明渡しを受けた後の利用方法として、社会福祉施設である「特別養護老人ホーム及び付属診療所の設置経営」を計画していると主張する。

しかしながら、被控訴人らは、本件各土地以外にも、次のように社会福祉施設用地としてより好適な、広大な遊休地を本件各土地に隣接して、所有しており、これを利用してその企図する社会福祉施設を建設することは十二分に可能であるにもかかわらず、これを雑木・雑草の生い茂るままに放置している状態にあり、被控訴人らが真に社会福祉施設の建設を考えているのかは甚だ疑問であり、訴訟対策として、市街化調整区域内にある本件各土地の利用方法として便宜的に主張するに至ったものと疑わざるを得ない。

すなわち、本件各土地は公簿面積五万八六五四平方メートル、実測面積九万二六五七平方メートルであるのに対し、右隣接地は、公簿面積二六万〇五二五平方メートル、実測面積約四一万平方メートル(本件各土地の縄延び率から推定)ある。

また、本件各土地は一団の土地ではなく、その中には第三者の土地も介在する、いわば虫食い状態の起伏の多い土地であって、これを利用するに当たっては、介在する第三者所有の土地により種々の使用上の制約、難問が生ずることが必至であるのに対し、隣接地は、起伏のない平坦な一団の土地であり、かつ、下水・排水などの便も良く、本件各土地に比し地理的にも有利である。

(六) 前記のとおり、本件各土地の明渡しは必然的にゴルフ場全域の閉鎖を余儀なくさせるものであるから、本件各土地の明渡しにより、現在控訴人に就職している百数十人の従業員は直ちに失職することになる。

また、それと同時に、控訴人のゴルフ場で健全なスポーツを楽しんできた年間延べ約五万人近い会員及びビジターがそのプレーをする場を失うことになる。

(七) 控訴人がゴルフ場経営のため莫大な設備投資をしてきたことは前記のとおりであるが、本件各土地を明け渡すことになれば、その明渡しのためにも更に莫大な費用を要することは必至で、その損害は到底受忍し難い額となる。

7  (消滅時効)

(一) 被控訴人らは、昭和三九年七月二七日付け訴状により、昭和三八年一二月二〇日から本件各土地明渡しずみまで一反歩につき一か年九二五八円の割合による賃料相当損害金の支払を請求していたところ、昭和六〇年一〇月二〇日付け準備書面により、請求原因6のとおり右請求を拡張した。

(二) しかしながら、控訴人は昭和五〇年前から本件各土地の賃料として一反歩につき一か年九二五八円以上の割合の金員を供託し、被控訴人らも、そのことを知っていたのであるから、被控訴人らは、本件各土地の賃料相当損害金が一反歩につき一か年九二五八円を超えることをも知っていたものというべきである。しかるに、被控訴人らは、控訴人が供託していた右賃料額と同額の賃料相当損害金を請求するについて客観的になんらの障害もないにもかかわらず、昭和五〇年一月二四日付け附帯控訴状において本件各土地の賃料相当損害金についてあえて一反歩につき一か年九二五八円と限定してその支払を請求したのであるから、被控訴人らは、右賃料相当損害金をその限りにおいて請求、すなわち、一部請求したものと解するのが合理的である。

(三) したがって、被控訴人らが請求を拡張した昭和六〇年一〇月二〇日から一〇年を遡った昭和五〇年以前の賃料相当損害金中一反歩につき一か年九二五八円を超える部分は、時効によって消滅したものというべきである。

控訴人は、昭和六一年二月二四日付け準備書面により、右時効を援用した。

四  抗弁に対する認否及び反論

1  抗弁1(本件賃貸借契約締結の経緯)の主張は、争う。

控訴人は、旧ゴルフ場用地は未墾地又は農地としていずれにしても強制買収を免れない運命にあったと主張する。しかしながら、旧ゴルフ場用地は、当時既に開墾されて完全な農地になっていてこれを未墾地として買収することは法律上不可能であり、また、これを農地として買収することも、地主たちがこれを法律上地主たちに一定限度で買収除外地として認められていた「保有地」に指定することによって農地買収の適用外となってしまったのであり、結局、旧ゴルフ場用地が未墾地又は農地として強制買収されるおそれは全くなかったのである。

また、旧ゴルフ場用地から入植者たちを退去させるについて、幹は、離農を拒否する入植者一四名に提供すべき土地の一部として三町一反九畝五歩という広大な土地を無償に近い超安値で提供するという莫大な犠牲を払っているのである。

2  抗弁2(借地法の適用)中、本件賃貸借契約が建物所有を目的とするものであることは否認し、その主張は争う。

本件賃貸借契約は、本件各土地の使用目的をゴルフ場とするものであるから、最高裁判所の判例によっても、借地法の適用がないことは明らかである。

3  抗弁3(当然更新の合意)中、当然更新の合意の存在は否認する。

控訴人が負担した補償金三五八四万円は、旧ゴルフ場用地の賃貸借に関して支払われたものであり、本件各土地の賃貸借に関するものではない。

4  抗弁4(組合契約の法理の適用)中、民事組合契約締結の事実は否認し、その主張は争う。

5  抗弁5(ゴルフ場経営協力の特約)の事実は、否認する。

6  抗弁6(信義則違背ないし権利濫用)の主張は、争う。

(一) 前記のように、旧ゴルフ場用地の明渡し問題解決のため、被控訴人ら一家は、離農を拒否する一四名の入植者に提供すべき土地として三町一反九畝五歩という広大な土地を一反当たり三〇〇円という無償に近い超安値で提供しているのである。もしこの土地の提供がなかったならば、右一四名の入植者の排除は絶対できず、ゴルフ場の再開もなかったはずである。右土地の価格は最低でも坪一〇万円、合計九億五七〇〇万円を下らないのであり、このような広大な土地を提供するという被控訴人ら一家の莫大な犠牲があればこそ、控訴人の本件ゴルフ場は開設されたのである。

(二) また、控訴人は本件各土地を返還することになればゴルフ場全体の閉鎖につながり、ひいては社団法人としての控訴人は解散のやむなきに至り、莫大な損害を被るから、本訴請求は権利の濫用に当たると主張するが、控訴人は、そのダミー会社的存在である鷹之台ゴルフ株式会社(以下「ゴルフ会社」という。)を設立して、控訴人解散の場合に備えており、控訴人が解散しても実害を被るものはだれもいない。

すなわち、社団法人の財産は、法人解散の場合その法人に類似する公益事業に寄付しなければならないため、控訴人がゴルフ場用地を買収取得しても、控訴人が解散した場合会員には財産は残らないが、控訴人の会員を株主として株式会社を設立して、これにゴルフ場用地を買収取得させれば、控訴人が解散した場合でも会員のため財産を確保することができ、会員が経済的損害を被ることがなくなる。そこで、本訴提起後の昭和四三年一二月、控訴人の役員のほとんどが設立発起人となり、株主を控訴人の会員に限定し、控訴人にゴルフ場用地と建物を賃貸することを目的として、新たにゴルフ会社が設立された。したがって、控訴人とゴルフ会社とは、異法人ではあるが、その実態は全く同一であり、両者の会員と株主は同一であり、また、役員も全く共通である。そして、ゴルフ会社は、控訴人の経営するゴルフ場用地のうち控訴人の所有する部分を順次低廉な価格で買い取り、同社がこれを控訴人に賃貸して賃貸料を徴収するという形で、控訴人の資産を同社に移すとともに、ゴルフ場用地のうち第三者の所有する部分、さらにはゴルフ場用地の周辺の土地をも控訴人からの多額の借入金等により順次買い入れて次第にその資産を増加させていき、現在では約一五万坪にも及ぶ広大なゴルフ場用地を所有するに至っており、その資産評価額は約四五〇億円もの巨額に上っている。

このようにして、控訴人の財産はほとんどゴルフ会社に移され、将来ゴルフ場が廃止され、控訴人が解散しても、控訴人の財産として残るものはほとんどないという状態であるのに対し、ゴルフ会社はゴルフ場用地内外に広大な土地所有権を有することにより、ゴルフ会社の株主でもある控訴人の会員は、仮に控訴人が将来解散した場合でも、ゴルフ場会社の有する広大な土地所有権の経済的価値を株式に化体した株主権により会員としての経済的利益を保障され、損害を被るどころか、かえって大きな利益を得ることになるのであるから、本訴請求が権利濫用に当たらないことは明らかである。

(三) また、本件ゴルフ場は、仮に本件各土地を返還したとしても、その残地面積は五四万八四八一平方メートルあるから、コースの一部修正手直し程度で一八ホールのゴルフ場として立派にやっていくことが可能である。全国的に見ても、右程度の面積で名門ゴルフ場として立派に経営されているところがかなり多くある。控訴人は、本ゴルフ場がチャンピオンコースであることを強調するが、ゴルフ場はチャンピオンコースに限られるものではないから、本件ゴルフ場も、一般普通のゴルフ場として利用できれば十分なはずで、チャンピオンコースでなければ絶対不可能であるという大前提を立てることは大きな誤りである。

(四) 更にいえば、そもそも、本件ゴルフ場は、周辺環境の変化により、今日では、この場所において存続することは許容されなくなってきているものというべきである。すなわち、本件ゴルフ場は、その発足当時は、山林、原野、畑等に囲まれ、ゴルフ場として利用することが社会公共の利益に沿うものであったと認められる。しかしながら、本件ゴルフ場は、京成電鉄大和田駅から徒歩約五分という至近距離にあるが、同駅は東京方面への通勤所要時間が短いため、本件ゴルフ場周辺への人口の流入増加が極めて著しく、現在、本件ゴルフ場周辺には立派な団地が林立し、住宅・工場等も密集し、もはや空地・遊休地を求めることは極めて困難で、新たに住宅を建てることは飽和状態に達している実情にある。本件ゴルフ場のこのような立地条件と周辺環境の変化に照らせば、本件ゴルフ場は、これを住宅団地として利用し巨大な人口を収容居住せしめることが社会公共の利益に沿うものであり、ゴルフ場として存続することは許されないものというべきである。

そして、控訴人及び前記のようにこれと一体の関係にあるゴルフ会社の資金資産をもってすれば、本件ゴルフ場を移転することは容易であり、そうすることが社会公共の利益に沿うものである。

(五) 被控訴人らは、控訴人から本件各土地の明渡しを受けた場合には本件各土地においていわゆる寝たきり老人の療養看護を中心とする特別養護老人ホーム及びその付属診療所並びに身障者専門学校を設置経営する計画であり、既に専門家に委嘱して具体的な実施計画を策定し、本件各土地の明渡しを受けると同時に即時右計画を実行に移し得る実情にある。なお、本件各土地は、市街化調整区域内にあるが、医療関係や学校関係の施設の建設は無条件で許容されることは、公知の事実である。

被控訴人らは、本件各土地に隣接して約一〇万坪の土地を所有しているが、その現況は山林であり、膨大な樹木が密生しているから、ここに右施設を建設するには右樹木を伐採搬出してその跡地を整地しなければならず、それには多大な歳月と莫大な費用を要するのに対し、本件各土地は樹木の伐採や整地の必要のない土地であり、右施設の建設に適している。

なお、被控訴人らは、従前市民のため緑の森を提供したことがあるが、現況山林の前記約一〇万坪の土地も当面緑の森として残置したい考えである。

(六) ゴルフは、スポーツに属さず、あくまで単なる娯楽にすぎず、控訴人の経営している本件ゴルフ場は、娯楽場にすぎない。本件各土地が現状のままゴルフ場として使用されれば、右の土地は一握りにすぎないプレイヤーの娯楽のため犠牲となって死蔵される結果となるのに対し、被控訴人らに返還されれば、老人福祉施設の設置経営その他国家社会のため有益に利用することが可能となるのである。したがって、被控訴人らの本訴請求は、権利濫用に当たらないことが明らかである。

7  抗弁7(消滅時効)について

(一) (一)の事実は認め、その余は争う。

(二) 一個の債権の一部の請求であることを明示しないで訴えを提起した場合には、債権の同一性のある限りその債権全体が訴訟の対象になっているのであり、時効中断の効力が認められる。被控訴人らは、本件訴え提起において賃料相当損害金の一部を請求する意思を明示したことはない。そして、現在の社会の趨勢からすれば、土地の賃貸借契約解除後の賃料相当損害金は、物価の高騰等によって増額上昇の一途をたどり、決して下降することはなく、将来に向かって絶えず増額されるという性質を持った債権であるから、附帯控訴状で請求した債権と昭和六〇年一〇月二〇日付け準備書面で拡張した請求とが債権の同一性を有することは明らかである。したがって、控訴人の消滅時効の主張は、失当である。

第三  証拠<書略>

理由

一請求原因1(本件各土地の所有関係)、2(本件賃貸借契約の締結。ただし、賃貸期間の約定を除く。)及び4(控訴人による本件各土地の占有)の各事実は、当事者間に争いがない。

二(本件賃貸借契約締結の経緯について)

以下争点についての判断に入るに先立って、まず本件賃貸借契約締結の経緯について検討する。

<書証番号略>、証人鶴岡喜一、同増田正二、同土屋留治(原審及び当審)、同柴田等、同渡辺一夫及び同池本久男の各証言並びに被控訴人ら訴訟被承継人幹本人尋問の結果(原審及び当審)によれば、次の事実を認めることができる。

1  本件各土地に隣接する旧ゴルフ場用地約二四万坪は、昭和五年ころから社団法人大和スポーツ協会が幹を含む地主たちから賃借し、ゴルフ場用地として使用していたが、太平洋戦争中に軍に接収され、農耕地とされた。ところが、右土地は終戦後一時放置され荒れ地となっていたため、千葉県が、終戦後間もないころ、地主たちの承諾を得ないまま、右土地に約五四戸の開拓者を入植させてしまった。そのため、地主たちは、千葉県及び入植者たちに対して右土地の返還を要求し、これに対し、入植者たちは、千葉県に対して右土地を未墾地又は農地として自作農創設特別措置法により買収することを強く求めて対抗したが、未墾地としての買収及び農地としての買収のいずれにも法律上の問題があって買収は進まず、さればといって入植者たちは右土地の明渡しに応ずる姿勢を見せなかったため、地主たちも、入植者たちも、その間に挟まれた千葉県も、事態の解決に苦慮していた。ところが、このような状態にあった昭和二七年ころ、地元県議会関係者らが右事態の解決に乗り出し、右土地を従前のようにゴルフ場として利用することを前提として、入植者らは新たに右ゴルフ場の経営に当たることになるゴルフ倶楽部から立退料の支払を受けて右土地を明け渡す、地主たちは右ゴルフ倶楽部に右立退料を負担してもらう代わりに右土地をゴルフ倶楽部にゴルフ場用地として賃貸する、ゴルフ倶楽部は入植者らに対する立退料を負担する代わりに地主たちから右土地の賃貸を受けてこれをゴルフ場用地として利用するという解決案が提示された。そして、折衝の結果、地主たち及び当時の入植者五四戸のうち四〇戸は右解決案に同意したが、残り一四戸は固く離農を拒否したため、地主たちが右土地のうちから所有地の約二〇パーセントずつ合計一四町歩を提供し、右一四戸に一町歩ずつ土地を供与すること、しかし、右土地のうちから右一四戸に一町歩ずつ合計一四町歩の土地を提供してしまうと残りの土地だけではゴルフ場用地として面積が十分でないため、右土地に隣接する本件各土地を含む代替地をゴルフ場用地として賃貸することなどが合意され、ここに旧ゴルフ場用地の明渡し問題は解決をみるに至った。

その結果、新たに設立されるゴルフ倶楽部である控訴人の設立発起人代表者から昭和二七年から翌二八年にかけて入植者らに対して約三五〇〇万円の立退料等が支払われ、また、地主たちからは立退きを拒否した一四戸の入植者らに対して一町歩ずつの土地が提供された(ただし、その方法は、右一四町歩を農地法により地主たちから未墾地として買収して右一四戸の入植者に売り渡すという形がとられた。)。また、右設立発起人代表者は、昭和二七年九月二四日、入植者らに提供された右一四町歩を除く旧ゴルフ場用地について、地主たちと賃貸借契約(<書証番号略>)を締結し、さらに、翌昭和二八年一一月二〇日、本件各土地について、幹ほか二名と本件賃貸借契約(<書証番号略>)を締結した。

2  ところで、入植者らに提供された一四町歩を除く旧ゴルフ場用地について締結された右賃貸借契約においては賃貸期間は一〇年と約定されたが、これは、当初控訴人側は二〇年を希望し、地主側は五年程度を希望し、交渉がかなり難航した末、最終的に両者の中間をとる形で一〇年となったものであった。そして、本件賃貸借契約における賃貸期間も、右のような交渉経過を踏まえて、右契約にならって一〇年と合意されたものであった。

三(賃貸期間の満了の有無について)

被控訴人らは、本件賃貸借契約の賃貸期間は満了したと主張するので判断する。

1  まず、本件賃貸借契約の賃貸期間の約定について検討する。

<書証番号略>並びに被控訴人ら訴訟被承継人幹本人尋問の結果(原審及び当審)によれば、本件賃貸借契約締結の際賃貸期間は契約締結の日から一〇年と約定されたことを認めることができる。

控訴人は、一〇年という短期間では控訴人が本件賃貸借契約によって達成しようとした経済的、社会的目的を達成することができず、本件賃貸借契約における賃貸期間を一〇年とするという約定は例文であると主張する。しかしながら、前記認定のとおり、本件賃貸借契約における賃貸期間の約定は、それに先立つ旧ゴルフ場用地の賃貸借契約締結に当たり賃貸期間を二〇年とすることを求める控訴人側とこれを五年程度とすることを求める幹ら側との間に強い意見の対立があり、交渉が難航した末、最終的にお互いが歩み寄ってほぼ中間の一〇年とすることが合意されるに至ったという経緯があり、このような経緯を踏まえて合意されるに至ったのであるから、このような賃貸期間約定に至る経緯にかんがみれば、賃貸期間の約定としてこれを一〇年とすることが合意されたものと認めるのが相当である。

2  また、控訴人は、本件賃貸借契約には一〇年の賃貸期間が満了した場合当然に更新する旨の当然更新合意があったと主張する(抗弁3)。

しかしながら、本件賃貸借契約の契約書である<書証番号略>には右合意の存在を伺わせる記載はなく、また、他に右合意の存在を認めるに足りる証拠もなく、かえって、右1に説示したように賃貸人側で期間を二〇年とすることに強く反対した経緯に照らせば、控訴人側には一〇年の賃貸期間が満了した時には更に契約を更新していきたいという強い期待ないし意向があったであろうことは伺えるところではあるが、幹ほか二名が控訴人側の右期待ないし意向に応えてその主張のような当然更新合意をしたことは到底あり得ないというべきであるし、地代等賃貸借の条件を再検討する期間を定めたとするには一〇年という期間は余りに長期にすぎるというべきである。

3  控訴人は、さらに、本件賃貸借契約は建物所有を目的とするものであり、借地法の適用があると主張する(抗弁2)が、この点についての当裁判所の判断は、原判決二七枚目裏四行目から同二八枚目裏一行目までと同じであるから、これを引用する。

4  そうすると、本件賃貸借契約の賃貸期間は契約締結の日である昭和二八年一一月二〇日から一〇年であるというべきであるから、昭和三八年一一月一九日の経過により右期間は満了したことになる。

四(組合契約の法理による制約の主張について)

控訴人は、本件賃貸借契約については組合契約の法理による制約を受けるものであると主張するので、検討する。

1  <書証番号略>並びに証人鶴岡喜一、同村田豊雄(第二回)、同篠田文吉、同松戸彬及び同西山伝平(第二回)の各証言によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  旧ゴルフ場用地の地主たちは、旧ゴルフ場用地について未墾地買収計画が立てられたころ、これに対抗し、一致して行動して旧ゴルフ場用地の返還を受けるため、地主会を結成し、幹が会長に就任した。前記認定の旧ゴルフ場用地の入植者や千葉県との土地返還交渉、控訴人設立発起人代表者との旧ゴルフ場用地の賃貸借契約締結などの交渉は、主として幹が地主会を代表して行った。

右賃貸借契約は、一通の契約書(<書証番号略>)により幹が地主たちの代表者として署名押印して締結されているが、幹は、右契約書作成に当たり、各地主たちから委任状(<書証番号略>)による委任を受け、各地主たちの代理人として署名押印したものであり、控訴人も、右賃貸借契約は各地主たちとの個別の契約であると理解している。

(二)  右賃貸借契約が締結され、控訴人が本件ゴルフ場をオープンして以後は、地主会は、控訴人に賃貸しているゴルフ場用地の地代の改定を交渉することと二年ごとに地主がその所有ゴルフ場用地の買取りを控訴人に求める場合の買取り価格をあらかじめ交渉決定しておくことの外は、会員相互の親睦を図ることが主たる目的であった。

(三)  地主会には、会長及び会計担当の理事の外、若干名の理事(いずれも任期二年)が置かれている。そして、地主会は、毎年九月に総会を開き、役員の選出や、会計報告その他の活動報告がされている。

しかし、地主会の組織その他についての明文の規約は、昭和五七年までは存在しなかった。

(四)  地代は、幹が地主会の会長をしていた間は、地主会の会長である幹に一括して支払われ、地主会においてこれを各地主に賃貸土地の面積割りで配分していたが、昭和三九年ころ幹が本件訴訟を提起するに当たり地主会を脱退して以後は、控訴人が各地主たちにその賃貸土地の面積に応じて個別に支払うようになった。

(五)  地主会は、控訴人へのゴルフ場用地の賃貸人である地主たちすべてが加入しているわけではなく、地主会への加入及びそれからの脱退は各地主たちの自由であり、現に、幹は、昭和三九年ころ本件訴訟を提起するに当たり地主会を脱退しているが、これについて、地主会の了承を求めたことはなく、また、地主会から異議が出たこともなかった。

(六)  各地主は、控訴人にゴルフ場用地として賃貸している土地を自由に売却処分することができ、また、売却する場合これを控訴人に売却するか他の第三者に売却するかも各地主たちの自由に任されており、地主会として会員である地主がゴルフ場用地を売却する場合これを控訴人以外の第三者には売却しないという申し合わせなどをしたことはない。そして、控訴人に売却する場合には、前記のように地主会が二年ごとに控訴人と交渉して決定した売買代金で売却することになるが、売買の交渉及び契約締結は地主と控訴人との間で直接行われ、売買代金も控訴人から地主に直接支払われ、地主会がこれに関与することはない。

(七)  地主と控訴人とのゴルフ場用地の当初の賃貸借契約は、前記のように地主会の会長である幹が各地主を代理して締結したが、その後の一〇年の賃貸期間満了に伴う更新契約などは、いずれも各地主が個別に締結している。

2  右認定の事実によれば、地主たちが控訴人に賃貸しているゴルフ場用地の処分権は各地主に留保され、組合財産としての制約等は一切なく、また、地主会への加入及びそれからの脱退も各地主たちの自由に任されているというのであるから、地主会は、控訴人主張のような地主たちがその所有土地を出資し、これを控訴人にゴルフ場用地として賃貸して高額の地代収入の安定的確保を図るという共同事業を営むことを目的として結成された組合としての性質を持つものとは認め難く、控訴人にゴルフ場用地を賃貸している地主たちが相互に利害を共通にする控訴人との地代増額交渉及び土地買取り価格の決定を有利に進めるとともに、相互の親睦を図るために組織された集まりにすぎないものというべきである。そして、前記認定の本件賃貸借契約締結の経緯その他本件全証拠を検討しても、控訴人主張のような組合契約締結の事実を認めることはできない。

五(ゴルフ場経営協力の特約的合意の主張について)

控訴人は、また、地主会の会員である地主たちと控訴人との間にはゴルフ場経営協力の特約的合意が存在すると主張する。

しかしながら、本件全証拠を検討しても、右合意の存在を認めるに足りる証拠は見当たらず、控訴人の右主張は採用することができない。

六(信義則違反ないし権利濫用の主張について)

控訴人は、また、被控訴人らが本件賃貸借契約の更新を拒否し、本件各土地の明渡しを請求することは信義則に反し、権利濫用として許されないと主張するので、検討する。

1  本件賃貸借契約締結の経緯は前記認定のとおりであり、終戦後入植者によって占拠されていた旧ゴルフ場用地の明渡し問題について、その明渡しを求める幹を含む地主たちとこれを拒否して自作農創設特別措置法による買収を求める入植者、そして、その間に挟まれた千葉県の三者とも解決の糸口を見付けることができず、事態の解決に苦慮していた中で、地元県議会関係者らから旧ゴルフ場用地を従前のように再びゴルフ場用地として利用することを前提とする解決案が浮上し、曲折を経た後、ゴルフ場の経営に当たるため新たに設立されるゴルフ倶楽部が旧ゴルフ場用地から立ち退く入植者らに対して約三五〇〇万円の立退料等を支払い、地主たちも旧ゴルフ場用地の約二〇パーセントに当たる一四町歩を拠出して立退きを拒否する一四戸の入植者に対して一町歩ずつ提供するという形で、入植者との旧ゴルフ場用地明渡し問題を解決し、右入植者らに提供された一四町歩を除いた旧ゴルフ場用地について地主たちと控訴人設立発起人代表者との間に賃貸借契約を締結するとともに、控訴人設立発起人側から右一四町歩を除いたままではゴルフ場用地として不足するとしてこれに代わる代替土地の提供を求められたため、幹を含む地主たちは右代替土地の提供に応じることとなり、幹ほか二名もその所有する本件各土地を賃貸することになり、その結果本件賃貸借契約が締結されるに至ったのである。

右の経緯に照らせば、本件賃貸借契約は、旧ゴルフ場用地の賃貸借の一環としてされたものということができる。しかも、地主たちと控訴人設立発起人代表者との旧ゴルフ場用地の賃貸借そのものは、控訴人側から求めてされるに至ったものではなく、むしろ、解決が難航していた旧ゴルフ場用地の明渡し問題の解決策として求められて控訴人が設立され、契約に至ったものということができる。その上、控訴人は、右旧ゴルフ場用地明渡し問題解決のため約三五〇〇万円という当時としてはかなり巨額の立退料も負担しているのである。したがって、控訴人の存在及びその立退料の負担が旧ゴルフ場用地明渡し問題の解決に重要な役割を果たしたことは否定することができない。しかし、旧ゴルフ場用地の賃貸借が右のように控訴人から求めたものではなく、その上控訴人の存在及びその立退料の負担が旧ゴルフ場用地明渡し問題の解決に重要な役割を果たしているとしても、旧ゴルフ場用地の明渡し問題解決のためには、地主たちもまた旧ゴルフ場用地の約二〇パーセントを入植者らに提供するという負担をしているのであり、ひとり控訴人のみが負担をしているわけではないのである。その上、前記認定のように、旧ゴルフ場用地の賃貸借契約締結に当たってはその賃貸期間をめぐって地主たちと控訴人側との間でかなり交渉が難航し、結局両者の希望の中間をとる形で一〇年と決まったのであって、右一〇年の期間が満了した場合に当然に契約を更新することが合意ないし了解されていたわけでもなく、むしろ、右の交渉の経緯にかんがみれば、契約の更新には楽観を許さないものがあったというべきである。それにもかかわらず、賃貸期間を一〇年として旧ゴルフ場用地の賃貸借及びその一環としての本件賃貸借契約が締結されたということは、それが地主たちにとってのみならず控訴人にとっても利益であると考えられたことによるものというべきであり、したがって、その締結によって受ける地主たちの受ける利益のみを過大に評価し、これを強調することは相当でないというべきである。

2  控訴人は、本件各土地を返還することになれば、他に代替地を求めることもできず、ゴルフ場全体を閉鎖しなければならなくなり、莫大な損害を被ることになると主張する。

<書証番号略>、並びに証人渡辺一夫、同大久保昌及び同村田豊雄(第二、三回)の各証言によれば、控訴人が現在経営しているゴルフ場は一八ホールを有し、チャンピオンコースとして計画、造成され、国内でも有数の名門ゴルフ場として評価されていること、控訴人が今本件各土地を返還することになれば、地形の関係上右一八ホール中アウト四番、五番、イン一六番及び一七番の約半分、イン一四番及び一一番の約三分の一並びにイン一二番及び一三番の全部が消滅することになること、本件各土地を返還した後の残地のみで一八ホールのゴルフ場を造るとなると、現在のようなチャンピオンコースを造ることは不可能で、練習用コース程度のものになること、本件各土地の上には散水用の水道ポンプがあるだけで、他に建造物その他の設備はないことを認めることができる。

右認定の事実によれば、控訴人が本件各土地を返還した場合、残りの土地だけでは控訴人が現在経営しているようなチャンピオンコースとしてのゴルフ場を造ることはできなくなるが、なお一八ホールのコースのゴルフ場を造ることは可能であるというのである。そして、ゴルフ場は、チャンピオンコースを備えなければゴルフ場といえないというものではなく、<書証番号略>並びに被控訴人和夫本人尋問の結果(第一回)によれば、国内に存する一八ホールのゴルフ場を見てみると、チャンピオンコースとはいえないゴルフ場の方が数の上では多く、それでもなおゴルフ場として経営され、成り立っていることが認められるのであるから、控訴人も、チャンピオンコースに拘らなければ、ゴルフ場としての社会的評価の低下は避けられないにしても、ゴルフ場を継続してゆくことは十分に可能であるというべきである。そして、控訴人がチャンピオンコースとしてのゴルフ場でなければ継続してゆくことが困難ないし不可能であると認められるべき特段の事情があるものとも伺われない。

また、前記認定の事実によれば、本件各土地の上には散水用の水道ポンプがあるだけであるというのである。そうとすれば、本件各土地を返還し、新たに残りの土地だけで一八ホールのゴルフ場を造り直すとしても、右水道ポンプ以外には建造物その他の設備の建替え等はほとんど必要ないものであり、コースの変更等の工事も既存のゴルフ場のコースを変更するものであるから、相当の費用がかかるにしても、新規にゴルフ場を開設するのとは異なり、控訴人が負担し切れないほど多額に上まわるものとも考えられない。

そうすると、本件各土地を返還することになれば控訴人はゴルフ場全体を閉鎖しなければならなくなり、莫大な損害を被るとする控訴人の主張は、その余の点について検討するまでもなく、失当である。

3  控訴人は、右以外にも、本件各土地を返還した場合ゴルフ場全体を閉鎖しなけらばならなくなることを前提としてその影響を種々主張するが、右にみたように、右主張は、その前提を欠くものであり、失当というべきである。

4  控訴人は、また、被控訴人らには本件各土地の返還を受けてもこれを使用しなければならない必要性がないと主張する。

<書証番号略>、証人阿部勝行、同川口和夫及び同篠田文吉の各証言並びに被控訴人和夫本人尋問の結果(第一回ないし第三回)によれば、被控訴人らは、本件各土地の周辺に約一〇万坪に及ぶ広大な土地を有していること、本件各土地及び右約一〇万坪の土地はいずれも市街化調整区域内にあること、幹は、遅くとも自己が脳梗塞で倒れた昭和五二年ころから、本件各土地が返還された場合にはここに寝たきり老人の介護のための特別養護老人ホームや身障者の社会復帰のための身障者専門学校などの社会福祉施設を建設したいとの希望を抱くようになり、幹や中丸らから川口家の広大な所有地の管理を任されていた被控訴人和夫は、幹の右意向を承けて、そのころ、一級建築士の阿部勝行に右社会福祉施設の企画、設計について相談し、同人に右特別養護老人ホーム、身障者専門学校及びこれに併設する予定の柏井病院の鳥かん図や建設計画概要書を作成させたこと、被控訴人和夫は、さらに、昭和五九年ころ、白井建設株式会社に依頼して、右社会福祉施設の建設工事費用について見積りをさせ、見積金額を四八億二〇〇〇万円とする見積書を得たこと、幹は昭和五五年五月に死亡したが、被控訴人らは、幹の死亡した後の現在でも、幹の意志である右社会福祉施設の建設を実現させたいという強い願望を持っていること、本件各土地は、市街化調整区域内にあり、宅地開発が制限されているものの、右のような社会福祉施設を建設するためならば宅地開発が許可される見通しであること、その建設資金も、被控訴人らが所有する前記のような広大な土地を売却し、あるいはこれを担保として借り入れることにより調達可能な見込みであること、被控訴人らが本件各土地の周辺に所有する土地にではなく本件各土地に右社会福祉施設を建設したいとする理由は、ここに建設することが幹の遺志であるということの外に、周辺の土地は高低差のある雑木林であり、ここに右社会福祉施設を建設するとなると地上の樹木を伐採し、整地しなければならないのに対し、本件各土地ならば高低差はあるにしても周辺の土地のそれよりは少なく、しかも、地上に樹木はほとんどなく樹木伐採の必要もほとんどないため、建設費が安くすみ、また、本件各土地は既設の排水施設が容易に利用できるのに対し、周辺の土地は新たに排水施設を造らなければならないほど排水の便が悪く、この点でも本件各土地の方が建設費が安くてすむなどの利便があること、以上の事実を認めることができる。

右認定の事実によれば、被控訴人らが本件各土地に建設を予定しているという社会福祉施設の建設は実現の可能のない、専ら本件訴訟対策として自己の主張を有利ならしめるため便宜的に主張されたにすぎないものとはいえず、被控訴人らはその実現の意思を有するとともに、その実現の可能性もあるものと認められる。しかも、被控訴人らは本件各土地の周辺に広大な土地を所有しているのであるから、右社会福祉施設を本件各土地にではなく右周辺の土地に建設することも不可能ではないというべきであるが、前記認定のような資金面や排水の便などの見地から本件各土地にこれを建設したいとする被控訴人らの希望が社会的にみて妥当性、合理性に欠けるものともいい難い。

5 以上みてきたように、本件賃貸借契約は、賃貸期間を一〇年とし、しかも、右期間が合意されるに至った経緯からしてその満了の場合の契約更新は必ずしも楽観を許さないことが予想される状況の下で締結されたものであること、控訴人は、本件各土地を返還した場合、チャンピオンコースを備えたゴルフ場としての継続は不可能になるが、なお一八ホールを有するゴルフ場として継続してゆくことは可能な状況にあること、被控訴人らは本件各土地が返還された場合にそこに社会福祉施設を建設することを計画しており、その実現は可能なものと認められる上、被控訴人らが右社会福祉施設を周辺の土地にではなく本件各土地に建設したいとすることにも社会的にみて妥当性、合理性が認められることにかんがみると、控訴人が本件各土地を返還することによってチャンピオンコースとしてのゴルフ場を継続することが不可能となり、しかも、コースの変更等の工事が必要となり、そのために相当の費用を要することになること、さらには、本件記録から伺われる和解交渉の経緯その他の諸事情を考慮しても、被控訴人らが本件賃貸借契約の更新を拒絶し、本件各土地の明渡しを求めることが信義則に反し、あるいは権利の濫用に当たるものとは認め難い。

七(被控訴人らの相続について)

<書証番号略>並びに被控訴人和夫本人尋問の結果(第三回)によれば、請求原因5(相続)の事実を認めることができる。

八(賃料相当損害金について)

<書証番号略>並びに証人三浦真一の証言及び被控訴人和夫本人尋問の結果(第三回)によれば、請求原因6(賃料相当損害金)の事実を認めることができる。

控訴人は、本件各土地のうちには登記簿上の面積を下回るものがあると主張するが、一般に土地の面積については反証のない限り登記簿上の面積があるものと推認するのが相当であり、本件各土地について登記簿上の面積を下回るものがあることを認めるに足りる証拠はないから、控訴人の右主張は採用することができない。

控訴人は、また、被控訴人ら主張の賃料相当損害金は控訴人が他の地主たちに支払っている別表「地主会賃料」記載の賃料と大きく乖離していると主張する。しかし、控訴人が他の地主たちに支払っている賃料は、賃貸借の継続を前提として双方の合意によって形成された継続賃料であるのに対し、被控訴人らが請求している賃料相当損害金は、賃貸借の継続を前提とした継続賃料ではなく、賃貸借の継続を前提とせず、本件各土地の評価額から算定される正常賃料を基礎としているものであるところ、一般に前者より後者が多少高額になることは避けられないところである。そして、本件においても、前記認定の被控訴人主張の賃料相当損害金が控訴人が他の地主たちに支払っているという右賃料を若干上回っていることは明らかではあるが、その程度の差異があるからといって右賃料相当損害金の認定が失当であるとはいえない。

九(消滅時効の主張について)

1  抗弁7(一)の事実は、当事者間に争いがない。

2  ところで、控訴人は昭和六〇年一〇月二〇日付け準備書面による請求拡張前における被控訴人らの本件賃料相当損害金請求は一部請求と解すべきであるから、右同日から一〇年を遡った昭和五〇年以前の賃料相当損害金中一反歩につき一か年九二五八円を超える部分は時効によって消滅したと主張する。

しかしながら、本件における被控訴人らの提出した訴状、附帯控訴状その他の準備書面等を検討しても、被控訴人らの本件賃料相当損害金請求が一部請求であることを明示したものは見当たらない。また、控訴人が抗弁7(二)で主張するような事実をもってしても、被控訴人らが右賃料相当損害金請求が一部請求であることを明示したものと解することはできない。

したがって、本訴提起による時効中断の効力は、右賃料相当損害金債権全部について生じているものというべきであり、控訴人の右主張は、採用することができない。

一〇(結論)

よって、被控訴人らの本訴請求は、当審における請求拡張部分をも含めてすべて正当であるから、控訴人の本件控訴は理由がないものとして棄却し、被控訴人らの附帯控訴に基づき原判決を主文二のとおり変更し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官川上正俊 裁判官石井健吾 裁判官橋本昌純)

別紙<省略>

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